オートバイにとって軽さは正義です。
車両重量150kgのオートバイと200kgのオートバイを比べてみましょう。仮にこの2台同じエンジンを搭載し車体構成も同等としましょう。当然のことながら150kgのほうが加速も最高速も優れるでしょう。コーナー進入時は150kgのほうがより深く奥まで突っ込んで鋭いブレーキングが可能で、コーナリング中にタイヤやライダーに掛かる負担も少なくてすむはずです。もちろん燃費にも優れます。200kgのほうが優れているとすれば、高速道路を一定のスピードで巡航するときの乗り心地でしょうか。メルセデスベンツSクラスの快適性には、あの車重が大きく関係しているのは言うまでもありません。
実際にはエンジンの出力や車重に見合う各部の強度が必要ですから、軽量化するためには強度を維持したうえで比重の軽い素材を使う必要があります。当然こういった素材は高価ですから、結果1台あたりの生産コストが上昇してしまいますので、俗に言われるように『軽量化はお金が掛かる』のです。
300万円級の現代のリッターSSでも軽量化は積極的に行われており、より軽量な素材へと材料置換が行われています。鉄⇒アルミ、アルミ⇒チタン、或いはアルミ⇒マグネシウムといった具合です。現行型YZF-R1Mを例に挙げると、燃料タンクタンク=アルミ、カウリング=ドライカーボン、ホイール=マグネシウム、エンジンのカバー類=マグネシウム、エンジンカバーのボルト=アルミ、インテークバルブ=チタン、コンロッド=チタン、エキパイ=チタンといった具合です。またあまり強度を必要としない外装パーツには積極的に樹脂が採用されているのも特徴です。
最初にも言いましたが、オートバイにとって軽さは正義です。ですがその正義は万人にとっての絶対的なものではありません。よくオートバイのことをアイアンホース=鉄馬と言います。1960~1970年代のモデルはまさに鉄馬でした。プラツチック部品など極僅か、メッキや分厚い塗装で保護された鉄、磨き込まれたアルミが鈍い輝きを放っていたのです。軽さは正義です。ですが金属の冷たい質感はオートバイにとって何物にも代えがたい魅力のひとつです。例え多少加速が悪くても、或いは燃費に劣っても鉄馬にふさわしい質感、そこに魅力を見いだすライダーが少なくないのも事実なのです。