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上質であるということ

先日遠路はるばるお越しいただいたお客様と、秋の阿蘇路をツーリングしてきました。お一人はレーシングメカニックの大先輩であり、バイカーズステーション誌(以後BS誌)やヘリテイジ&レジェンズ誌などでライターとしてご活躍中の吉村誠也さん、そしてそのご友人のSさんという面子。マシンは写真のとおりBS誌の『XJ900の爽快チューン』でお馴染みのXJ900、SさんのXJ750E、そして店主のFZ750という、30年前のツーリング写真ですか?と言われても何の違和感もない組み合わせです。

さて今回のツーリング、紅葉を迎えた最高の季節に阿蘇路を旅して美味しいものを食べるのが目的の一つですが、個人的には吉村さん入魂のXJ900を試乗させてもらうのがそれ以上の楽しみでした。

待ち合わせ場所から南阿蘇に移動した後、『それでは車両を交換して』ということになりました。ルートは阿蘇周辺で最も標高の高い広域農道『南阿蘇グリーンロード』です。通常他人のバイクでアップダウンの激しいワインディングをというのは少々気が引けるものですが、このXJ900に関しては割とすぐに馴染むことができました。理由は2つ。

①まずポジションが80年代ヤマハ車の典型的なスタイルに近かったため。各メーカーのライディングポジションには各社それぞれの考え方があって、バーハンドルやセパレートハンドルの違いはあれ、同時代の同メーカー車両であれば自然と相通じるものがあります。店主は長年ヤマハ車に慣れ親しんできましたし現在の愛車もFZ750(1986年型)ということで、すぐに慣れることができました。

②番目はエンジン特性がフラットで低回転から厚いトルクで大変に扱いやすかったため。当日のグリーンロードは前日の雨で路面に落ち葉が張り付き注意深く走る必要がありましたが、そんな状況でも安心して走り抜けられたのはこのエンジン特性のおかげでした。

また特筆すべきはその振動の少なさ。一見現行のFIエンジンのようなスムーズさですが、回転上昇の仕方やパワーの出方は旧型キャブ車のそれで、なんとも不思議な感覚でした。そのあたりの秘密は吉村さんからヒントをもらったので、今後自分のFZもそこに近づけるように煮詰めてみます。

いろいろとビックリするばかりの試乗でしたが、中でも最も驚いたのはこれらのモディファイが定番のカスタムパーツを使って実現したものではないという点です。前述したスムーズこの上ないエンジンも、CVキャブとSTDマフラーの組み合わせでした。しかも燃費は25㎞/L以上走るというのです。このあたりの詳しい解説はバイカーズステーション誌のバックナンバーを読んでみてください。かなりの長期連載ですからすべてに目を通すのは大変ですが、吉村さんのHP(http://www.europark.com/xj900/)に抜粋があるのでご参考まで。

もちろん気になる点も少しありますが、それらの多くは恐らく吉村さん分かっていてやってることのようです。メーカーの出荷状態はすべての項目で平均点以上をねらった万能車です。各メーカーの定めた品質基準があるので、どんなにサーキット性能にターゲットを絞ったようなSS車でも、性能に関係ないような快適性等も最低限持ち合わせているものです。しかしこれは個人の車両、すべての項目で80点を目指す必要はありません。ある項目を自分の目指す100点に近づけるために、不要と判断した部分を50点にしてもかまわないわけです。このあたりの割り切りは、元レーシングメカニックという部分が大きいのかもしれません。

店主もメンテナンスや修理で沢山のカスタムマシンに試乗してきました。中にはカスタム総額数百万円というものすごいものもありました。ただなかなかここまで上質な車両はありません。高級な車両である必要はありません。でも上質な車両でありたい。そう強く感じた1日になりました。